見た目と強さ、狭間でも揺れない耐震補強
大阪のお寺で庫裡の耐震工事を行っています。
昭和初期に建てられた立派な庫裡。一昨年大阪で起きた地震によって土壁が落ちてしまい、その補修をするにあたって耐震工事も一緒にすることになりました。
このような柱と梁で支える建物は通常の壁で支える建物とは異なり、揺れに対してしなることで地震に耐えます。中途半端に特定の部分を強くしてしまうと力が集中し、木材が耐え切れずに破壊されてしまうのです。
どこを固めれば部材が破壊されることなく強くできるのか。全体のバランスを見ながら補強を計画しました。
工事は数度に分けて行われ、現在は玄関ホール周辺を施工中です。
ホールは小屋まで抜けており、大きな梁がこれまた大きな梁にかかって横たわっているのが見て取れます。こんなに立派な梁なのに、なんと全然節が見られません!足場に上って間近で見たにも関わらず、節の一つも見受けられない。滅多なことではお目にかかれないとても貴重な材です。
△写真左下、140角の柱が細く見えるほど。上に乗っている梁がどれだけ大きいのかおわかりでしょうか。
壁面は金具と構造用合板で補強を入れます。左官での仕上げをした真壁で収まるように合板を入れたり、建具を戻せるように柱の芯をずらしたり。豪快なホールの印象を保つため、なるべく元々の意匠を損なわないよう、沢山の工夫が散りばめられています。
はじめは水平方向にも合板を使用しようと思っていましたが、それでは吹き抜けの見た目を阻害してしまうということで却下に。では見た目を損ない過ぎないブレースにしよう……と決めたところでまたしても問題が発生。大きな梁が上下に組まれているので梁同士の高さが合わず、金物がつけられないのです。
大工さんのお知恵を拝借しながら、どうしたらブレースの金物が取り付けられるのか考えます。今回は新しくレベルを合わせた梁を追加することで解決しました。
見た目と機能性は相反しやすいにも関わらず、どちらも譲れないものです。どちら側の価値も損なわれないよう折り合いをつけるべき場所を考え、両立させていかなければなりません。